ナノ領域における電子物性にはスピン・軌道自由度が顕著に表れ、電子の電荷・スピン・軌道角運動量が素励起と共に織り成す多彩な物理現象が発現します。我々の目標は、量子力学的・相対論的現象を自在に操ることでこの学理を開拓し、既存のデバイス原理を遙かに超える新しい電子技術の物理基盤を創出することです。
具体的な研究は多岐に渡りますが、現在の主なテーマは以下の通りです。
1. 軌道流量子物性
2. 空間反転対称性の破れた系におけるスピン流の量子物性
3. 素励起とスピン流の相互作用が生み出す物理現象
これまでの主な研究成果は以下の通りです。
軌道流を生み出す新現象「軌道ポンピング」の観測に成功
Observation of orbital pumping
Hiroki Hayashi, Dongwook Go, Satoshi Haku, Yuriy Mokrousov, and Kazuya Ando
Nature Electronics 7, 646 (2024).
Observation of orbital pumping
Hiroki Hayashi, Dongwook Go, Satoshi Haku, Yuriy Mokrousov, and Kazuya Ando
Nature Electronics 7, 646 (2024).
今回の研究では、磁気のダイナミクスから軌道流が生み出される新たな現象「軌道ポンピング」を発見しました。スピントロニクスの発展において、スピン流に起因する多彩な現象・機能がスピンポンピングという現象を用いて次々と明らかになってきました。今回の研究により見出された軌道ポンピングはスピンポンピングの軌道版であり、軌道流に基づく新たな電子技術・電子物理を切り拓くための重要な基盤となることが期待されます。
スピントロニクスデバイスの性能を最大化
Spin-orbit torque manipulated by fine-tuning of oxygen-induced orbital hybridization
Yuito Kageyama, Yuya Tazaki, Hongyu An, Takashi Harumoto, Tenghua Gao, Ji Shi, and Kazuya Ando
Science Advances 5, eaax4278 (2019).
Spin-orbit torque manipulated by fine-tuning of oxygen-induced orbital hybridization
Yuito Kageyama, Yuya Tazaki, Hongyu An, Takashi Harumoto, Tenghua Gao, Ji Shi, and Kazuya Ando
Science Advances 5, eaax4278 (2019).
本研究グループは、このようなスピントロニクスデバイスの性能を最大化する鍵となるのは、デバイス内部の電子密度分布の精密な制御であることを見出しました。これにより、原子レベルでのスピントロニクスデバイス設計の重要性が初めて明らかになりました。今後、新現象に関する基礎研究が進み、超高速・低消費電力のスピントロニクスデバイス開発がさらに加速されることが期待されます。
化学の力で電子のスピンをコントロール
Molecular engineering of Rashba spin-charge converter
Hiroyasu Nakayama, Takashi Yamamoto, Hongyu An, Kento Tsuda, Yasuaki Einaga, and Kazuya Ando
Science Advances 4, eaar3899 (2018).
Molecular engineering of Rashba spin-charge converter
Hiroyasu Nakayama, Takashi Yamamoto, Hongyu An, Kento Tsuda, Yasuaki Einaga, and Kazuya Ando
Science Advances 4, eaar3899 (2018).
今回、本研究グループは、有機分子を使ったこれまでにないアプローチで、金属スピントロニクス素子におけるスピン軌道相互作用をコントロールし、電流とスピン流の間の変換効率を向上させることが可能であることを明らかにしました。さらに、光照射により構造を変える有機分子を用いることで、スピントロニクス素子の光学的制御を実現しました。
2018年3月30日:化学工業日報 朝刊5面 「金属スピントロニクス素子 有機分子で機能制御 慶応大」
2018年3月28日:fabcross (web) 「慶應大、有機分子で電子のスピンを制御―変換効率の向上が可能に」
2018年3月27日:Optronics online 「慶大,スピントロニクス素子の光学的制御を実現」
2018年3月28日:fabcross (web) 「慶應大、有機分子で電子のスピンを制御―変換効率の向上が可能に」
2018年3月27日:Optronics online 「慶大,スピントロニクス素子の光学的制御を実現」
絶縁体を使ったスピントロニクス素子の新たな動作原理を発見
Current-induced magnetization switching using an electrically insulating spin-torque generator
Hongyu An, Takeo Ohno, Yusuke Kanno, Yuito Kageyama, Yasuaki Monnai, Hideyuki Maki, Ji Shi, and Kazuya Ando
Science Advances 4, eaar2250 (2018).
Current-induced magnetization switching using an electrically insulating spin-torque generator
Hongyu An, Takeo Ohno, Yusuke Kanno, Yuito Kageyama, Yasuaki Monnai, Hideyuki Maki, Ji Shi, and Kazuya Ando
Science Advances 4, eaar2250 (2018).
今回、本共同研究グループは、金属を酸化させることで電流を流さなくなった金属酸化物絶縁体を用いても、スピントロニクス素子を駆動可能であることを世界で初めて明らかにしました。この発見により、スピントロニクス素子に流れた電流によって発生するエネルギー損失を極限まで抑えた低消費電力素子を実現する新たな道が開けました。今後、今回明らかとなった新現象に関する基礎研究が進み、超高速・低消費電力のデバイスの開発、およびそれを用いた省エネルギー社会の実現への道が開けることが期待されます。
2018年3月5日:化学工業日報 朝刊10面 「スピントロニクス素子 金属酸化物絶縁体で駆動」
2018年3月1日:EE Times Japan(web) 「効率はトポロジカル絶縁体に匹敵:金属酸化物絶縁体でスピントロニクス素子を駆動」
2018年2月27日:Optronics online 「慶大ら,スピントロニクス素子を絶縁体で制御」
2018年3月1日:EE Times Japan(web) 「効率はトポロジカル絶縁体に匹敵:金属酸化物絶縁体でスピントロニクス素子を駆動」
2018年2月27日:Optronics online 「慶大ら,スピントロニクス素子を絶縁体で制御」
銅を酸化させると白金を超える性能を発揮
Spin-torque generator engineered by natural oxidation of Cu
Hongyu An, Yuito Kageyama, Yusuke Kanno, Nagisa Enishi, and Kazuya Ando
Nature Communications 7, 13069 (2016).
Spin-torque generator engineered by natural oxidation of Cu
Hongyu An, Yuito Kageyama, Yusuke Kanno, Nagisa Enishi, and Kazuya Ando
Nature Communications 7, 13069 (2016).
今回、本研究グループは、古くから広く産業で用いられてきた銅を自然酸化させるだけで、最も高性能なスピントロニクス材料の1つである白金に優るスピン軌道トルクを生み出せることを明らかにしました。この発見により、レアメタルを使わずにスピントロニクスデバイスを実現する道が初めて開けました。これまで注目されてこなかった金属の酸化によって生まれるスピントロニクス現象の基盤研究が進み、超高速・低消費電力のデバイスの開発、およびそれを用いた情報化社会の実現への道が開けることが期待されます。
2016年10月14日:EE Times Japan(web)「銅を自然酸化、巨大なスピン軌道トルクを生成」
2016年10月13日:鉄鋼新聞 朝刊5面 「慶応大の研究グループ 次世代電子技術で新手法」
2016年10月12日:マイナビニュース(web)「銅を酸化するだけでレアメタルスピントロニクス材料を上回る効率に - 慶大」
2016年10月12日:日刊工業新聞 朝刊29面 「スピントロニクスデバイス、銅の酸化で高性能に−慶大が発見」
2016年10月11日:NHK(ニュースチェック11, BSニュース, NHKラジオ)
2016年10月11日:NHK NEWS WEB 「レアメタル使わずに次世代技術可能に」
2016年10月13日:鉄鋼新聞 朝刊5面 「慶応大の研究グループ 次世代電子技術で新手法」
2016年10月12日:マイナビニュース(web)「銅を酸化するだけでレアメタルスピントロニクス材料を上回る効率に - 慶大」
2016年10月12日:日刊工業新聞 朝刊29面 「スピントロニクスデバイス、銅の酸化で高性能に−慶大が発見」
2016年10月11日:NHK(ニュースチェック11, BSニュース, NHKラジオ)
2016年10月11日:NHK NEWS WEB 「レアメタル使わずに次世代技術可能に」
磁気の流れによる新しい磁気抵抗効果を発見
Rashba-Edelstein Magnetoresistance in Metallic Heterostructures
Hiroyasu Nakayama, Yusuke Kanno, Hongyu An, Takaharu Tashiro, Satoshi Haku, Akiyo Nomura, and Kazuya Ando
Physical Review Letters 117, 116602 (2016).
Rashba-Edelstein Magnetoresistance in Metallic Heterostructures
Hiroyasu Nakayama, Yusuke Kanno, Hongyu An, Takaharu Tashiro, Satoshi Haku, Akiyo Nomura, and Kazuya Ando
Physical Review Letters 117, 116602 (2016).
2016年9月12日:Optronics online 「慶大,磁気の流れによる磁気抵抗効果を発見」
磁気の流れ(スピン流)の増大原理を初めて解明
Nonlinear spin-current enhancement enabled by spin-damping tuning
Hiroto Sakimura, Takaharu Tashiro, and, Kazuya Ando
Nature Communications 5, 5730 (2014).
Nonlinear spin-current enhancement enabled by spin-damping tuning
Hiroto Sakimura, Takaharu Tashiro, and, Kazuya Ando
Nature Communications 5, 5730 (2014).
今回、絶縁体から金属へと流れ出すスピン流を精密に測定することで、スピン流量が絶縁体中のマグノンの寿命によって決定されていることが初めて明らかになりました。寿命の長いマグノンを作り出すことでスピン流を増大できるという、これまで未知であったスピン流の増大原理を解明したものです。この発見は、現在世界中で研究が進められているスピン流利用技術の基盤となる知見であり、電流の代わりにスピン流を用いることでエネルギーロスを極限まで抑えた次世代省エネルギー電子技術への大きな推進力となることが期待されます。
2014年12月12日:財経新聞 「慶應大、電子スピンを利用したデバイスの実現に繋がるスピン流の増大原理を解明」
2014年12月12日:livedoor NEWS「慶應大、電子スピンを利用したデバイスの実現に繋がるスピン流の増大原理を解明」
2014年12月11日:Yahoo!ニュース「慶応大、スピン流量が絶縁体中のマグノンの寿命により決定されることを解明」
2014年12月11日:マイナビニュース 「磁気(スピン)流の増大原理を初解明」
2014年12月10日:Science Portal 「磁気(スピン)流の増大原理を初解明」
2014年12月12日:livedoor NEWS「慶應大、電子スピンを利用したデバイスの実現に繋がるスピン流の増大原理を解明」
2014年12月11日:Yahoo!ニュース「慶応大、スピン流量が絶縁体中のマグノンの寿命により決定されることを解明」
2014年12月11日:マイナビニュース 「磁気(スピン)流の増大原理を初解明」
2014年12月10日:Science Portal 「磁気(スピン)流の増大原理を初解明」
導電性高分子中で磁気の流れを作り出すことに室温で初めて成功
Polaron Spin Current Transport in Organic Semiconductors
Shun Watanabe, Kazuya Ando, Keehoon Kang, Sebastian Mooser, Yana Vaynzof, Hidekazu Kurebayashi, Eiji Saitoh, and Henning Sirringhaus
Nature Physics 10, 308 (2014).
Polaron Spin Current Transport in Organic Semiconductors
Shun Watanabe, Kazuya Ando, Keehoon Kang, Sebastian Mooser, Yana Vaynzof, Hidekazu Kurebayashi, Eiji Saitoh, and Henning Sirringhaus
Nature Physics 10, 308 (2014).
今回、磁気のダイナミクスを利用することで導電性高分子中にスピン流を作り出すことに成功し、これまで未解明であった有機材料中のスピン流の特異な性質を明らかにしました。この発見は、他の物質と比較して著しく長いスピン情報保持時間を示す有機材料の特長を利用した次世代省エネルギー電子技術への大きな推進力となることが期待されます。
2014年3月17日:化学工業日報6面「スピン流の性質解明 慶応大、導電性高分子中で作製 省エネデバイス開発に道」
2014年3月18日:環境ビジネスオンライン(web)「慶応大、電気を流すプラスチック中での磁気の流れを解明」
2014年3月19日:日刊工業新聞(web)「慶大、導電性高分子にスピン流を作ることに成功-安価なプラスチック製」
2014年3月19日:マイナビニュース(web)「慶応大、導電性高分子中でスピン流を作り出すことに室温で成功」
2014年3月19日:日刊工業新聞27面「導電性高分子にスピン流」
2014年3月18日:環境ビジネスオンライン(web)「慶応大、電気を流すプラスチック中での磁気の流れを解明」
2014年3月19日:日刊工業新聞(web)「慶大、導電性高分子にスピン流を作ることに成功-安価なプラスチック製」
2014年3月19日:マイナビニュース(web)「慶応大、導電性高分子中でスピン流を作り出すことに室温で成功」
2014年3月19日:日刊工業新聞27面「導電性高分子にスピン流」
塗るだけで出来上がる磁気-電気変換素子
Solution-processed organic spin-charge converter
Kazuya Ando, Shun Watanabe, Sebastian Mooser, Eiji Saitoh, and Henning Sirringhaus
Nature Materials 12, 622 (2013).
Solution-processed organic spin-charge converter
Kazuya Ando, Shun Watanabe, Sebastian Mooser, Eiji Saitoh, and Henning Sirringhaus
Nature Materials 12, 622 (2013).
今回、既に安価に製造されているプラスチックが、磁気-電気変換素子の原料として利用可能なことが明らかになりました。これにより、フレキシブルで大面積化が可能な低コスト「磁気-電気変換プラスチック」の作製が可能となり、環境負荷の極めて小さな次世代の省エネルギーデバイス開拓への大きな推進力となることが期待されます。
2013年5月8日:日経産業新聞7面「磁気を電気に変換、東北大・慶大、導電性プラ系素材」
相対論的効果を利用してシリコン中の磁気の流れを電気信号に変換する事に成功
Observation of the inverse spin Hall effect in silicon
Kazuya Ando and Eiji Saitoh
Nature Communications 3, 629 (2012).
Observation of the inverse spin Hall effect in silicon
Kazuya Ando and Eiji Saitoh
Nature Communications 3, 629 (2012).
今回、電子のスピン情報と軌道運動を結びつける相対論的効果によって、シリコン中のスピン流を電気信号として読み出すことに成功しました。本研究成果により、成熟した現代の電子デバイス製造プロセス技術と極めて整合性の高いシリコンスピントロニクスへの道が開かれ、環境負荷の極めて小さな次世代省エネルギーデバイス開拓への大きな推進力となることが期待されます。
2012年3月12日: MRS Bulletin (37, 186 (2012)) "Inverse spin Hall effect observed in silicon " Steven Spurgeon.
2012年2月3日:科学新聞4面「東北大金研 相対論的効果を利用 スピン流を電気信号に変換 −シリコンスピントロニクスへ道−」
2012年1月19日:日経産業新聞「東北大 超省エネ演算処理前進 −電流に代え「スピン流」−」
2012年1月18日:日刊工業新聞「東北大 シリコン中のスピン流電気信号変換に成功 −次世代素子実現へ一歩−」
2012年2月3日:科学新聞4面「東北大金研 相対論的効果を利用 スピン流を電気信号に変換 −シリコンスピントロニクスへ道−」
2012年1月19日:日経産業新聞「東北大 超省エネ演算処理前進 −電流に代え「スピン流」−」
2012年1月18日:日刊工業新聞「東北大 シリコン中のスピン流電気信号変換に成功 −次世代素子実現へ一歩−」
あらゆる物質で利用可能な新たなスピン流注入手法を発見
Electrically tunable spin injector free from the impedance mismatch problem
K. Ando, S. Takahash, J. Ieda, H. Kurebayashi, T. Trypiniotis, C. H. W. Barnes, S. Maekawa, and E. Saitoh
Nature Materials 10, 655 (2011).
Electrically tunable spin injector free from the impedance mismatch problem
K. Ando, S. Takahash, J. Ieda, H. Kurebayashi, T. Trypiniotis, C. H. W. Barnes, S. Maekawa, and E. Saitoh
Nature Materials 10, 655 (2011).
今回、磁気のダイナミクスを利用することで、上記制限を一切受けない極めて汎用的なスピン流注入手法を発見しました。さらにこの方法は電界により制御可能であることを明らかにし、これにより従来用いられてきた方法の1000倍以上のスピン流を作り出すことに成功しました。
本研究成果によって、金属だけでなく半導体・有機物・高温超伝導体といったあらゆる物質への高効率なスピン流注入が容易に可能となり、スピントロニクスデバイス設計の自由度が大きく拡大されることで、環境負荷の極めて小さい次世代省エネルギー電子技術への貢献が期待されます。
2011年9月5日:NPG Asia Materials “Spintronics: Pumped injection” (doi:10.1038/asiamat.2011.132).
2011年8月23日:Nature Materials, News and Views "Spintronics: Taming spin currents" I. Žutić and H. Dery.
2011年6月28日:日経産業新聞9面「電子の磁石「スピン」材料に簡単注入東北大超省エネ基板技術に」
2011年6月27日:日刊工業新聞17面「スピン流1000倍超注入に成功」
2011年6月27日:化学工業日報「東北大とJAEA新スピン流注入手法を発見」
2011年8月23日:Nature Materials, News and Views "Spintronics: Taming spin currents" I. Žutić and H. Dery.
2011年6月28日:日経産業新聞9面「電子の磁石「スピン」材料に簡単注入東北大超省エネ基板技術に」
2011年6月27日:日刊工業新聞17面「スピン流1000倍超注入に成功」
2011年6月27日:化学工業日報「東北大とJAEA新スピン流注入手法を発見」